ベルガモット・エ・サーレ・ディ・トラパニ
ひと皿の向こうに、
イタリアの記憶を。
2018年、南青山。ある夏の夕暮れにロレンツォ・マルケッティが灯した小さな店は、いま「リストランテ・チエロ(空)」と呼ばれている。客席はわずか十四席。カウンター、サラ、そして個室「スタンツァ・プリヴァータ」。料理は、その日の空模様と市場の声で書き換えられる単一のデグスタツィオーネ・コース。
北イタリア・ピエモンテに生まれ、ボローニャ、トスカーナ、シチリアの四地方を経て、シェフは2014年に来日した。日本の四季の繊細さと、自身が育ったランゲ丘陵の重く深い大地の味——その二つの記憶を、彼は一皿の上で再会させようと試み続けている。手打ちのタヤリンに削る白トリュフ。利尻島の塩で締めた魚に、アマルフィのレモンを落とす。地中海と日本海は、ここで静かに溶け合う。
私たちは料理を「ショー」ではなく「会話」だと考えている。皿が運ばれた瞬間に語り尽くされる声よりも、ひと口目から最後のドルチェまで、ゆっくりと立ち上がってくる素材そのものの声を信じている。だから当店ではメニュー表を最初にお渡ししない。今宵運ばれてくる十二の皿を、まずは目と鼻と舌で読んでいただきたい。
— Lorenzo Marchetti, Chef & Owner